NowDO.com > 能動登山教室 > 最終回
山を楽しく安全に登るための55章
 by 森田秀巳

恥はかきたくない
「山登りの常識・非常識」
常識か非常識か。あなたはわかりますか
  1. 山は登り優先
    • 登りが優先という考えは基本的には間違ってはいません。
      登りのほうがたいていは苦しく、こんなときにいちいち止まって下る人を待っていたら疲れてしまうからです。
    • ただ、それも状況次第。

      たとえば瘠せた岩稜では下りのほうが緊張します。
      こんなところで下山者を待たせては気の毒です。
    • また、下山者が道をあけることで草花を踏み荒らしてしまうような場所もいちがいに登り優先とはいえません。
    • 基本は基本としてあとは臨機応変にいきたいものです。
      というわけで△。

  2. 山では必ず挨拶する
    • 山に登りたてのころは、みんな喜んで挨拶します。
      子どもはとくにうれしそうです。
    • 見知らぬ者同士が、ほんの一瞬ではあっても、交わす挨拶というのは山ならではで、さわやかな朝や体調のいいときは何とも気分がいいものです。
    • 少々疲れているときも、元気な挨拶でシャキっとします。
      しかしそうもいっていられない場面も往々にしてあるのもまた事実です。
    • たとえば集団登山とのすれ違い。
      元気な子どもたちだとこれはたいへんです。
      バテていて、ひとこともしゃべりたくないときも困ります。
    • とりあえず適当にやるしかありませんが、相手の目も見ずに義務的にやるのなら、挨拶なんてしなくてもいいような気もします。
      よって

  3. 山の朝は早ければ早いほうがいい
    • 山は早立早着が原則。
      雪山では、雪崩を避けるために、午前2時、3時に行動開始することも珍しくはありません。
    • ただし、早ければいいというものでもありません。
      まだ寝ている人がいるのに、大部屋のなかでガサゴソやられてはえらい迷惑ですし、だいいち暗いうちに歩きだしても、ヘッドランプの明かりだけで歩くのはとても危険なのです。
    • 山登りは山全体を見て、ルート判断するものです。
      ランプの明かりしかなければ、分岐や道標を見逃すかもしれませんし、浮き石や木の根につまづいて転倒しかねません。
      頭上に落石のありそうな崖があっても暗くては気づかないのです。
    • 出発準備は、空が白々と明けはじめるころで十分。
      たいていの山は、5時に出発すれば午後の早い時間に目的地に着くことができます。
      明るくなって違う山にいることに気づいても困るのでこれは×

  4. 自然に戻る生ゴミなら捨ててもいい
    • 缶カラやティッシュをポイ捨てするおバカさんは少なくありませんが、生ゴミを平気で捨てる人はそれよりもっもっと多いようです。
    • たしかに生ゴミは土に還ります。でも、捨てて1週間やそこらで消えてなくなるわけではありません。
    • それが生態系に影響をおよぼす可能性だってあるのです。
    • 一例をあげましょう。
       
      1. 生ゴミを食べにきた鳥や動物がそこで糞をします。
      2. その糞に、そこには本来ない植物の種が混じっていたとします。
      3. 種はやがて芽を出し、成長します。
      4. もしその植物がまわりの植物を凌駕する強さを持っていたとしたら、一帯の植生を変えてしまうかもしれません。
    • 生ゴミでもゴミはゴミ
      必ず持ち帰ります。
      というわけで×

  5. 食器などは沢でなく水場で洗う
    • 食器やバーベキューの鉄板を川や湖で洗う非常識はオートキャンプの世界だけかと思っていたら、どうもそうではないようです。
    • 山の上のテント場の水場でも、米粒やら食べかすが散らばっている光景をしばしば目にします。
    • 沢はいけないけど水場ならOKというのは大きな間違い。
    • もしその水場が沢に流れ込んでいるとしたら、結局は沢で洗うのと同じです。
    • 地下浸透式のようになっている水場ならなおさら。
      生ゴミをそこにポイ捨てしているのと同じことです。
    • 見た目にも不潔で汚ならしいものです。
    • 水場は水をくむだけのところ。
      洗い場ではないのです。
    • 汚れた食器や炊事用具は、ではどうすればいいのでしょう。
      • ロールペーパーなどで拭いて家に持ち帰るだけでいいのです。
    • 当然のことながら、ここは×

  6. 雨が降ってきたらすぐに雨具を着る
    • 濡れると体温が急激に奪われる山では、汗以外で服を濡らさないようにするのが鉄則です。
    • 実際、手をフリーにしていたい稜線や岩場ではすぐにレインウエアを着るしかありません。
    • でも、緩やかな樹林帯や平坦なアプローチでは判断に迷います。
    • ザックが重ければ、いくらゴアテックスのレインウエアでも汗びっしょりになってしまいます。
    • そこで登場するのが、トレッキングアンブレラと呼ばれる、軽量の山用傘です。風さえなければ、至極快適。蒸れなどまったくありません。
    • また、レインハットだけで十分な場合も少なくありません。
    • 状況によって対応がいろいろなので

  7. 下着は汗をよく吸う木綿がいちばん
    • これはむずかしいのです。
    • たしかに、高山の稜線で濡れねずみになってしまえば、木綿の下着やシャツは容赦なく体温を奪い、クロロファイバーやオーロンといった化学素材と比べれば、生きるか死ぬかほどの差が出てしまいます。
    • ただ、真夏の快晴で高温の稜線など、体を冷やすことに神経質にならなくてもいい状況では、木綿の肌ざわりや汗で濡れたひんやり感はなんとも心地よいものです。
      化学素材ほどでなくても、木綿でも薄い素材ならすぐ乾きます。
    • ならこうしてはどうでしょう。
    • 2000m以下の山なら木綿の下着を着て、化学素材の下着(半袖でいい)は万一用。
    • 3000m前後の高山でも、暑くて天候の安定した日なら木綿の下着でOK(化学素材の半袖下着はザックの片隅に)。
      ただし風の強い日や天候の悪化が予想される稜線では化学素材の半袖下着。
    • 化学素材の下着なら、少しくらい濡れても着たきり雀で問題ありません。
    • つまり臨機応変に、というわけで

  8. 山では必ず長袖・長ズボン
    • 岩場や薮での手足のケガ、急激な気温の変化を考えれば、たしかに山では長袖・長ズボンがベストです。
    • でも、夏の樹林帯などは、いくら標高が高くても猛烈に暑いし、逆に汗にぐっしょり濡れた体で、風の吹きすさぶ稜線に飛び出すことになりかねません。
    • いっぽう、半袖・半ズボンで歩く夏の稜線は快適ですが、すぐに日に焼けて真っ赤っか。
      痛くて火照って夜も眠れなくなってしまいます。
      岩場で転べばただじゃすみません。
    • 低山なら、害虫の攻撃もいやです。
    • こんなときはその中庸をとりましょう。
      ズボンは綿パンなどより薄い素材で、とてもゆったりとしたトレーナー型のもの。
      上は、化学素材か綿のポロシャツ、あるいは七分袖のゆったりしたシャツ。
      下着は状況に応じて、木綿か化学素材を選択します。
    • いずれにしろ、半袖のほうが快適なことも多いので

  9. 山小屋やテント場は先着者が優先
    • 個室を予約してあった場合は別にして、山小屋の大部屋には優先権などないと思ってください。
    • 山小屋は緊急避難小屋としての側面もあります。
      込んでくれば当然詰め込まれます。
    • だれでも、オレのほうが先に来たのだという意識がありますから、先に部屋に入って奥を陣取った登山者はまるで牢名主のようにでんと座っていますが、寝るときになれば、みんな同じスペースをあてがわれます。

      わがまま者がいたら、小屋の人に注意してもらえばいいのです。
    • ただしテント場はなかなかそうはいきません。
      一度張ってしまえば動かすのはだれだっていやですし、水はけなど立地のいいところをせっかく取ったのだから、二つ返事でスペースを空けてくれることなどまずありません。

      テント場には暗黙の優先権があるのです。
      だから早く着くべし。
    • というわけで

  10. バテた人は置いて先に行く
    • バテてしまっている人は、歩く余力があまりない人ですから、こんな人を置いて先に行くなんて、同じ山ヤとしてやはり許せません。
      置いていかれた人も、もし無事に帰れたら、以後はそんなメンバーとは絶対に山に行ってはいけません。
    • とはいうものの、バテた人が出たことで、計画が大幅に狂ってしまうのもまた事実です。
      全員がビバークともなれば、家族や友人にいらぬ心配をかけることになります。
    • バテた人が山慣れた人で(そんな人はまずバテないけど)、病気でもなくただ疲れただけで、コース上に危険な個所や複雑な分岐がなければ、あとからゆっくり歩いてもらって体力の回復を期待してもいいと思います。
      いくら山でも、ある程度のマイペースを認めるのが民主主義というものです。
    • もちろん、もしバテた人がビギナーだったら、サブリーダークラスの人が1人か2人付き添うのは当たり前の話です。
    • 計画が多少狂っても、最後まで一緒に帰る。
      それが登山パーティというものです。
    • その昔、松濤明は疲れきった友を見捨てられず、一緒の死を選びました。
      だから当然×